▼公共政策セクション対話研究会 第15回
<福祉環境交流センター 連続セミナー第34回>
「『日本版エコロジー税制改革』試案:ドイツの成果と課題を踏まえて」報告
千葉大学COEプログラムとして「持続可能な福祉社会」(Sustainable Welfare Society)の実現を研究の中心テーマにすえている当センターでは、人口減少・少子高齢・地球温暖化など、大きな構造変化に直面しつつある現在の経済社会における税制・社会保障制度などの社会の根幹となるシステムを持続可能なシステムに切り替えていくことを研究の柱としている。
地球温暖化への対策として二酸化炭素の排出量を抑制し、より環境負荷の少ない生産活動や消費行動へと社会の構造を変化させるべく、様々な取り組みが行われている。公共政策部門第15回対話研究会は、環境省に長く勤務され、この4月から名古屋大学に転出された竹内恒夫氏を講師に迎えて、ドイツにおける環境税制改革と、竹内氏が提案されている「日本版ETR」の内容について伺うとともに、参加者を交えての議論を行った。
始めに竹内氏から環境税制改革とドイツの事例が紹介され、その問題点と課題を報告された。環境税を引き上げて環境負荷の削減を促進するとともに、その税収を年金財政の補填として年金保険料を減額し、雇用コストの引き下げによる雇用の促進を同時に達成するという環境税制改革(ETR)は、1980年代から欧州で始まった。1998年に緑の党と連立して誕生したドイツのシュレーダー政権は、1999年にエネルギー税率を2000年から2003年まで毎年引き上げる一方、年金保険料率は毎年引き下げられるというドイツ版ETRを導入した。しかし、2005年に誕生したメルケル内閣では税率は変更されていない。2005年の連邦環境省の委託によるドイツ経済研究所の分析では、二酸化炭素削減と雇用増が同時に達成されたことが実証的に確認されている。しかし、エネルギーの個別の二酸化炭素排出量に着目した税率になっていない、産出補助金を交付している国内産の石炭・褐炭に配慮している、減税規模とのミスマッチ、一律の税率による不公平感などの問題点・課題を指摘された。
続いて、2010年の二酸化炭素排出量を1990年レベルにするという大規模な設定で、企業と家計の負担の中立を図る、化石燃料の二酸化炭素排出量ごとに税率を付与、納税義務者は最終販売者といった改良を加えた日本版ETR導入のスキームが紹介された。炭素1kgあたり45円を課すと総額で16.3兆円になり、28兆円と推計される企業と家計の年金保険料の減額によって負担の中立化を図る、導入後は二酸化炭素排出低減に伴う税収減を毎年の税率引上げで補うとし、日本のケースは税方式による基礎年金財政の一元化に寄与すること、環境問題と雇用、福祉を視野に入れた中立な税制となると述べられた。また、日本版ETRの効果推計や、労働などの成果から社会保険料・税として徴収するグッズ課税に代わる二酸化炭素や廃棄物といった環境負荷に課税するバッズ課税という、少子・高齢化国民負担体系のありかたを提示された。
参加者からは、排出量が減って税率が上がっていくと年金財源としては不安定ではないか、他の国の税制と比較した場合のドイツのETRのメリット、実際の政策としての実行可能性について質問や意見、さらに税率の設定方法などの試算方法に関する質問や意見が相次いだ。竹内氏は、ETRは超長期的には年金の財源とはなりえないが政策課題に対して中立な税制であること、社会保障と税会計との整合性のような政策分野を超えた議論や政策の提案は本来は難しいが、ドイツでも政権交替時に実施されたこと、また、バッズ課税は資源多消費型の企業や家計の行動パターンを省エネ型にシフトさせるインセンティブとなりうる等の回答やコメントが述べられた。
最後に本COEプログラムのプロジェクトリーダーである広井良典センター長から、今後も高まるであろう環境税の議論の中で、税制中立というポイントが焦点となること、政策課題としての環境と福祉が重なるという今回の対話研究会を締めくくるコメントがあった。
2006年4月26日16:30〜18:00
於:千葉大学文科系総合研究棟2階マルチメディア会議室
(文責:野村眞弓)
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