▼社会文化科学研究科「『場所の感覚』の総合政策的検討」プロジェクト共催
「『場所の感覚』をめぐる連続セミナー」
【第1回】「『場所の感覚』と都市計画」報告

 6月8日に第1回「場所の感覚」をめぐる連続セミナー(第18回公共政策セクション対話研究会)を開催しました。今回は「『場所の感覚』と都市計画」というテーマで、千葉大学園芸学部の木下勇先生と、同じく工学部の岡部明子先生をお招きして、御報告をいただきました。当日は30名近くの方が参加され、盛況なセミナーとなりました。
 木下先生のご報告「『スロースペース』と『スローなまちづくり』」では、ハイデガ−や西田、和辻の場所や風土の議論から始まり、続けて具体的な「スローなまちづくり」の事例が紹介されました。
 ご報告の中で興味深かったのは、日本とオランダの法律の比較でした。日本の道路交通法第76条(「禁止行為」)においては、道路に寝そべったり道路で遊んだりすることは禁止されています。それに対して、オランダでは道路交通法改正によってボンネルフ(Woonerf:歩車共存道路)に関する規定ができ、第88a条では「道路上で遊ぶことも差し支えない」と明記され、第88b条では、運転者は「遊んでいる子どもや、一般歩行者、障害物、路面の凸凹などに対処できるよう余裕をもって走行しなければならない」と記されました。ここには、空間に対する根本的な考え方の違いがあると感じました。
 それに関連して、ご報告の中で、「子どもの遊び空間」という視点が強調されていたことが印象的でした。「大人がついていないと遊べない子供は、そうでない子供に比べて自立性などが低くなる」と指摘されたことは、新鮮であり、また重要な問題提起をされたと思いました。
 岡部先生のご報告「『場所の感覚』と公共空間――-創造的縮小を支える思想を求めて」では、人口減少時代における都市計画のあり方について考察がなされました。
 具体的に、旧東ドイツの都市において、人口の急減によって空家が増え、市街地に「穴が開いていく」ことにより、都市の魅力が失われていったことを示されました。その対策として、ライプツィヒとバルセロナの例をとりあげ、無秩序に穴が開いていくことに任せるのではなく、計画的に「穴を開けていく」こと(perforation)によって、都市の公共空間を充実させる方向で(例えば廃屋を取り壊して広場や公園にする)、都市の魅力を高めていくことが可能であることを示されました。
 お二方の報告は、単なる都市計画の技術論ではありませんでした。木下先生は、遊び空間が子供の人格形成に与える影響に目を向けていました。岡部先生は、人口減少の空間的インパクトを真剣に受け止め、「穴を開けていくこと」に関する哲学を提唱することの重要性を主張されていました。このように、お二方の報告には思想的なメッセージがあり、とても刺激的でした。
 司会の倉阪先生は「物理層」と「コード層」というコンピュータ言語空間上の区分を環境政策にも生かすことを提案していますが、その提案について議論になりました。議論を通じて、物理的空間のあるべきマネジメントの仕組みと、現在の制度的な仕組みがずれているという点について、参加者の間で問題意識が共有されていることが窺えました。

2006年6月8日 14:30〜16:30

千葉大学共同研究室2(人文社会科学研究系総合研究棟4F)

(リサーチ・アシスタント 吉永明弘)

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