▼国際公共比較部門第18回対話研究会報告

 国際公共比較部門の第18回対話研究会では、本事業推進メンバーの大峰真理氏(本学文学部准教授)が「18世紀サン=ドマング島における奴隷労働」と題して研究報告を行った。本報告の対象時期は前近代に遡るが、国際公共比較部門が取り組んできた「労働」研究の一環であり、労働力としての奴隷を扱ったものである。
 本報告では「奴隷は本当に『安価な労働力』だったのか」を検討課題に掲げ、1.報告者の専門研究領域である奴隷貿易研究の研究史、2.フランス奴隷貿易の概説、3.プランテーション経営における奴隷雇用の実態が報告された。

 1.奴隷貿易の研究史では、イギリス史における「奴隷貿易利潤論争」を通じて奴隷貿易・現地プランテーションの実態が明らかにされてきたふまえ、フランス奴隷貿易の研究史上の課題として「プランテーション組織や経営の実態を知ること」が指摘された。この課題は「奴隷制の内実への接近」という意義があり、「安価な労働力」として表象される奴隷労働の実態を分析するための視座が提示された。
 2.フランス奴隷貿易の概説では、16世紀以降、アメリカ・西アフリカにおいて、フランスが植民事業と貿易を展開していく具体像が示された。とりわけ、17世紀半ば以降に特権貿易会社事業の展開をつうじて西アフリカからの黒人奴隷取引が恒常化していったことが指摘された。
 3.奴隷雇用の実態については、18世紀半ばにサン=ドマング島のさとうきびプランターの日誌を分析対象とし、奴隷の死亡率と出生率、奴隷購入価格、奴隷労働に関する諸規定・了解事項が明らかにされた。以上の報告を通じて、奴隷労働が安価であったとは必ずしも言えず、「黒人奴隷導入のための初期コストを再考」すべきであるとの提言がなされた。

 質疑応答の具体的内容については割愛するが、奴隷労働力が安価/高価であることを証明するための条件、北米大陸における奴隷労働との対比、本研究課題の今後の展望について活発な討論がなされた。

2007年4月19日 14:00〜16:00

法経学部棟2階 法経第2会議室

(技術補佐員 鹿住大助)

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