「18世紀リヨンのギルドについて:地方都市の産業と社会編成」
報告:鹿住大助(公共研究センター/学振)
 近年のフランス史研究において、スティーヴン・L・カプランらを中心にフランスにおけるコルポラシオン、コルポラティスムの検証がすすめられている。彼らが対象とする時代は18世紀から現代までの長期にわたるが、フランス革命期のコルポラシオン廃止後も、近代以降のフランスにおいて、コルポラシオンやコルポラティスムが資本主義下の階級対立の解消を唯一実現できる制度としてイデオロギー化されたり、その反対に偏狭な利己主義として断罪されるなど、社会のあり方をめぐってコルポラシオンが議論の的となってきた。彼らの基本的姿勢は、そこで表象されるコルポラシオンと社会の実態、社会的実践とがどのように関係していたのかを論じるものである。
 カプラン自身は、コルポラシオンやコルポラティスムが争点となるときに、常に想起されるアンシャン・レジーム期(特に18世紀)のギルドについて、ギルドが構成する手工業社会の実態と、チュルゴのギルド廃止論などをめぐって浮かび上がるフランス王国の編成理念を論じるなかで、かつて実在したコルポラシオンとその変化を描き出す。しかし、彼の議論では、アンシャン・レジーム期フランスでは手工業ギルドなど特権団体の位置が王権による統治とその理念に深く関わっていたことが示されるが、地方都市におけるギルドの実態についてはあまり取り上げられていない。
 当時の各地方都市には独自の産業構造が存在しており、これがギルド制度と手工業者の社会編成にいかなる影響を与えたのかを分析しなければならないと考える。
 そこで本報告では、18世紀フランスの地方都市リヨンにおけるギルド制度と手工業社会の編成を論じる。報告は以下の構成で行う予定である。第一にリヨンの都市、産業、ギルドの特色を示し、第二に具体的なギルドについてその規約から制度的な構造を明らかにする。分析対象とするギルドは、リヨンにおいて相対的に小規模な車大工のギルドと、相対的に大規模な製靴・靴修理工のギルド、そしてリヨンの中心的産業である絹織物業のギルドである。第三に、18世紀リヨンの社会階層構造をふまえて、これらのギルドがリヨンの手工業社会の構成にどのように関係していたのかを論じる。最後に、アンシャン・レジーム期のフランス王国におけるリヨンのギルドの特徴を述べた上で、今後の研究の見通しとして、フランス革命期や19世紀リヨンでおこった絹織物工の労働争議についてふれながら、ギルドがその後のリヨンの歴史にどのような影響を与えたのかを展望したい。

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