▼公共政策セクション対話研究会 第4回
<福祉環境交流センター 連続セミナー第23回>
「アジアにおける終末期医療の現状と課題」報告

 これまで日本における終末期ケアは様々な展開が行われてきていますが、近隣の諸国での状況はあまり知る機会がありません。今回は2005年3月に韓国ソウルで行われた第6回アジア太平洋ホスピス緩和ケアネットワーク会議に参加されたNPOピュア代表の藤田敦子氏、千葉県がんセンター整形外科の安部能成氏をお迎えして、日本の終末期医療の展開、韓国・台湾・日本・オランダの施設の実際についてお話をうかがい、参加者との熱心な質疑応答が交わされました。
 はじめにNPOピュア代表の藤田敦子氏から、日本においての終末期医療ならびに近代ホスピスについて、発祥地のイギリスからどのように伝わり、民間の先駆的な取り組みが医療保険制度の適用につながった経緯が紹介されました。また、現在の日本では、病院等の施設での死亡が80%を越え、がんに限ると90%以上が「病院等施設死」でありながら、ホスピス緩和ケア病棟は2〜3%であること、緩和ケアは病院を中心とした展開であることが指摘されました。続いて、1995年に日本財団の補助を受けて始まったアジア太平洋地域ホスピス緩和ケアネットワークの活動が紹介されました。
 続いて千葉県がんセンター整形外科の安部能成氏から、アジアにおける終末期医療の現状と課題について、韓国・日本・台湾の事例をオランダとの比較を交えて説明されました。終末期医療に携わる担当者の視点から各国の施設の様子を豊富な画像で紹介され、アジア各国でホスピスケアが発展の各段階にあることを示されました。東北アジアのホスピスケアについて、“技術は輸入しやすく、思想は輸入しにくい”として、ホスピスケアを支える思想、文化、宗教、教育の面では後進国であると指摘されました。
 参加者との質疑応答では、日本ではホスピスケアを医療の範疇でとらえており、医療者が中心となっているがより広い職種(医療ソーシャルワーカー等)の参加が必要なこと、制度面では介護保険制度は65歳以上となっており、平均年齢が60歳のがんの終末期の患者には適用されないなどの日本の現状の問題点や、ターミナルケアに関する教育の問題、在宅ケアに関するイギリスとの比較や、ホスピスケアが旧イギリス領のアジア太平洋地域で発達している点など興味深い議論が展開されました。

2005年4月27日

千葉大学法経学部第一会議室

(野村眞弓)

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