▼公共政策セクション対話研究会 第5回
<福祉環境交流センター 連続セミナー第24回>
工藤秀明「もうひとつの『循環型社会』論:エントロピー学会が提起するもの」報告

 近年、環境問題への関心の高まりとともに、これまでの高度成長型の社会像が反省され、それに変わる新たな社会像として「循環型社会」というものが提唱されています。2000年に「循環型社会形成推進基本法」が制定され、2003年には「循環型社会形成推進基本計画」が策定されるなど、循環型社会への移行は一つの大きな政策目標となっています。その一方で、「循環型社会」という理念やそれに向けた政策のあり方を反省する動きも出てきました。今回の報告者である工藤秀明先生は、エントロピー学会の主張に依拠しながら、「循環型社会」のあり方について大きな問いかけを行っています。
 報告のはじめに、1970年代の公害問題から現在に至るまでの、廃棄物とリサイクルに関するさまざまな政策研究を紹介され、その中で「物質収支」(マテリアル・バランス)に目が向けられたことを評価されました。特に、1997年の『環境白書』における「物質収支」の図の中に、直接的な資源採取だけでなく、その過程で生じる「隠れたフロー」(資源採取時の捨石や不要鉱物、建設工事に伴う掘削、土壌侵食、肉生産時の飼料投入量など)が明示されていることを高く評価され、その後「隠れたフロー」が後景に退いていったことを嘆かれていたのが印象的でした。
 次に、エントロピー学会の「能動定常系」(開放定常系)の議論を紹介され、地球の自然のシステムがさまざまな循環によって成り立っていることを説明されました。そして、問題は「人間の経済活動の循環」が「自然の諸循環」にそくした形で行われているかどうかにある、ということを示されました。この見方から、現代産業社会は、「人間の経済活動の循環」が「自然の諸循環」から離脱し外在化している点に問題があり、「人間の経済活動の循環」が「自然の諸循環」に内在化された社会を求めていくべきだという提案をなされました。
 結論として、「循環型社会」の取り組みは、「自然の諸循環」に「人間の経済活動の循環」を内在させることを目標にしなければ、単なる「大リサイクル社会」にすぎないものになってしまう、と強い警告を発せられました。
 研究会には、およそ20人が参加し、エントロピーという視点の意義などに関して、予定時間を超過するほど活発な討論がなされました。

2005年5月25日 14:30〜16:00

千葉大学法経学部第二会議室

(リサーチ・アシスタント 吉永明弘)

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