▼Workshop Series 2005 "Public Policy and Asia: A Vision for an Asian Welfare and Environment Network"
国際ワークショップ・シリーズ2005「公共政策とアジア:アジア福祉・環境ネットワークへの構想」報告

 EU拡大からさらなる発展段階を目指しているヨーロッパでは、公共政策研究は研究者による理論・実証研究と実務家による実践がコラボレートしながら行われています。今回は、長年イギリスの公共政策研究を主導してこられたMichael Hillニューカースル大学名誉教授が来日されたのを機に、公共政策研究の方法論、そのアジアへの展開を中心としたワークショップを開催しました。
 初めにMichael Hill先生から、事前検証することが困難な政策研究では他の実施例との比較研究が重要であること、また、比較から蓄積された情報・知識を普遍化していくプロセスについて、ヨーロッパを例としたご報告がありました。そして、政策形成過程とその成果を、個々の政策に関連する独立変数(予算や成果)のレベルから、政治制度の違いなどの国ごとのレベルまでの多元的なモデルとして分析する比較研究の方法の説明に続いて、今日の政策デザインにおける国際的な事例研究の重要性が指摘されました。また、各国の研究者が協同して比較研究を行っているThe European Consortium of Political Researchの取り組みが紹介されました。
 次にこの3月まで英国オックスフォード大学で公共政策を研究され、欧州委員会のEU・アジアの比較政策研究プロジェクトにも関与された小川哲生千葉大学助教授から、東アジアにおける公共政策研究ネットワークの促進についてコメントがありました。アジアにおいても持続可能な福祉社会へ向けた研究者、実務家、NGOや国際機関などによる協働の研究ネットワークを構築し、アジアでの多様な歴史・文化、政治制度を踏襲しながら、経済社会における政策共通課題への共同の取り組みを奨励していく必要性が紹介されました。
 続いて、小林正弥千葉大学教授から、東アジアにおける公共性についてコメントがありました。日本の‘お上’、中国の‘天’、韓国の‘共’といった東アジアにおける伝統的な‘公’の概念の違いと西欧のpublicとの違いが説明され、今日では日本や中国でも西欧的な意味での‘公共’概念の導入が必要であり、さらにこれらの概念の長所の総合や、さらに国民国家を超えた公共空間の構築が必要と指摘されました。
 その後、参加者を交えてヨーロッパにおける‘公共’概念の揺らぎや、年金政策に関する国際研究、公共政策研究ネットワークの具体的な展開方法など、公共政策と公共哲学の接点に触れ、本COEとしてさらなる研究が拡がる熱心な議論が展開されました。

2005年5月27日

千葉大学法経学部第一会議室

(野村眞弓)

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