▼公共政策セクション対話研究会 第7回
<福祉環境交流センター 連続セミナー第26回>
「東アジアの少子高齢化と福祉社会構築の課題」報告

 少子・高齢化は日本を含めた「先進国」固有の問題と考えられがちですが、東南アジアを含めた東アジア全域で急速に進展しつつある現象です。先進諸国と異なり、所得水準が低い段階で高齢化を迎えるという「開発途上国の少子高齢化」が新たな高齢化問題としてクローズアップされています。今回は、こうしたテーマに関する研究を幅広く行い、JICAや外務省のプロジェクトにも関わっておられる日本総研の大泉啓一郎さんをお招きし、これら地域における現状、社会保障システム整備のあり方、コミュニティのもつ意味、日本との新しい協力関係のあり方等についてお話を伺いました。
 はじめに出生率の低下と平均寿命の伸展が世界レベルで進展し、今後は膨大な人口を抱える後進地域で高齢者人口が急増するという世界的な人口動態の変化について説明されました。次に東アジアでは日本を上回る速さで人口の高齢化が進んでおり、2025年にはアジアNIEs(韓国、台湾、シンガポール、香港)では高齢化率が21%に達し、タイと中国の高齢化率は14%との推計を示されました。続いて人口動態の変化と経済発展について、1)人口爆発、2)人口ボーナス、3)人口高齢化の三つの局面に整理され、2)と3)が混在しているとみられる東アジアでは、高齢化の進展は貯蓄率の低下を招き、人口ボーナスをメルトダウンさせる可能性(とくにタイと中国)を指摘されました。また、国際社会の支援もSocial safety netから Social protectionに変化していると説明されました。さらにASEAN 4(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン)と中国での医療保険制度と老齢年金制度の現状と展望について報告されました。最後に開発途上国の高齢化への視点として、所得水準・財政規模の制約下での社会保障制度の構築、財政の健全性や税制・徴税制度の改善、高齢化を視野に入れたインフラ面の改善、民間保険の導入などの市場経済の取り込み、コミュニティの活用などをあげられました。
 質疑応答では、東アジアの高齢化がこの数年で急速に進んだ背景、Social safety netと Social protectionの違い、東アジアにおける福祉社会におけるコミュニティあるいは市民の位置付け・役割、グローバリゼーションによる医療や介護分野の人材の先進国への移動が途上国に及ぼす影響、人口抑制と少子高齢化への支援の混在など、フロアからの積極的な質疑やコメントが続き、活発な討論が展開されました。コーディネータの広井良典氏からは、アジアはヨーロッパとは異なるルートで福祉社会へ進んでいくことを掘り下げていく必要があるとコメントがありました。
 今回の対話研究会は、人口問題や社会保障、アジア地域研究、国際支援などに関連する研究機関の研究者、各方面のNPOからの参加を得て、ホットな議論が展開されるとともに、参加者間の新たな交流の機会の場ともなりました。

2005年6月29日

千葉大学大学院社会文化科学研究系総合研究棟 マルチメディア会議室

(野村眞弓)

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