▼公共政策セクション対話研究会 第9回
<福祉環境交流センター 連続セミナー第28回>
「現代社会に活かす東洋医学の智恵」報告

 千葉大学柏の葉キャンパスでは東洋医学専門の千葉大学柏の葉診療所が置かれ、園芸療法など新しい試みが行われています。また、つくばエクスプレス柏の葉キャンパス駅においてLOHASをキーワードとする駅ビル開発が計画されていますが、東洋医学の観点から大学も街づくりに協力するという産官学の連携も進められています。今回は、柏の葉診療所所長の喜多敏明先生に、東洋医学を生かしたさまざまな活動についてお話しいただきました。
 講演は、原因志向の西洋医学と解決志向の東洋医学の違いから始まり、現代社会における両者の有機的な連携についてと展開されました。
 西洋医学は疾患を局所の異常として認識し、その原因を臓器レベルから細胞・分子へと特定していき、その原因を除去または改善するという手法をとること、問題とその原因を1対1の単純な関係として理解し、単一の方法で対処する分析志向であることから、診断が重視されると説明されました。その例として、ピロリ菌の発見者が本年のノーベル医学生理学賞を受賞することをとりあげ、何か疾患があると原因をつきとめるという科学的手法をとる西洋医学では高く評価されると述べられました。
 一方の東洋医学では、疾患を病邪に対する本来備わっている自然治癒力の闘病反応ととらえ、その闘病反応に応じてさまざまな自然治癒力を補完する対処法を構築するというストラテジー、すなわち治療が重視されると説明されました。東洋医学は疾患を全体が織り成すパターンとして理解し、複数の方法でバランスをとりながら対処するという総合志向であり、長い経験を積み重ねた体系であるが、なぜ、その方法が効くのかはわかっておらず、西洋医学的分析によって解明されつつあることを、葛根湯を例に紹介されました。
 現代社会が直面する高齢化とストレスに対する東洋医学の可能性として、外科手術や救命救急的治療を必要とする疾患・病態には西洋医学的治療、アレルギー性疾患、生活習慣病、心身症・ストレス関連の疾患や、機能性の疾患・不定愁訴などには東洋医学的治療を有機的に連携させることで、生活の質(QOL)の維持・向上に寄与できると展望されました。
 続いて、環境と健康をテーマに、医薬・看護・園芸・教育・工学などが連携する千葉大学環境健康フィールド科学センターの活動として、「未病者QOL測定サイト」の開発、「(健康で持続可能なライフスタイル)タウンの形成」、東洋医学の診療所「柏の葉診療所」などが紹介されました。
 参加者からは、東洋医学と西洋医学の連携の具体例、日本における東洋医学の位置付け、社会での認識、がんのケアとしての東洋医学に関する質問があり、現在は医学教育の中でも「和漢薬の概説」が加わるとともに、大学病院や総合病院で漢方外来が増加されているが、まだ実践的な教育の体系ができていないこと、病気になったらどこが悪いかと考えるような科学的な思考回路が定着している日本の社会で、国民に東洋医学への関心が高まっているので啓蒙に向けた実践的な活動が必要であると回答されていました。さらに経験的な研究と理論的な研究を相互補完的に統合しようとする公共哲学との方法論の類似性、医療に至る前の保健・健康の増進あるいはオルタナティブ・メディスン(代替医療)ないしホリスティックメディスンとしての東洋医学の位置付け、さらに医療のパラダイムの変化など、参加者が少なかった分、活発な議論が展開されました。
 「未病を治すのが上医」という東洋医学の発想は、まさに生活習慣病の増加や医療費の高騰に悩む現代社会において、改めて学ぶべき先人の智恵であると感じられた内容でした。

2005年10月19日(水)15:30〜17:00

於:千葉大学大学院社会文化科学研究系総合研究棟1階 マルチメディア教室

(野村眞弓)

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