▼国際公共比較部門主催
「『労働研究と公共性』コロキアム」報告

  2006年3月5日、千葉大学大学院社会文化科学研究科棟2階マルチメディア会議室において「労働研究と公共性」コロキアムが開催されました。日本における労働研究・労働問題研究の分野で多くの業績を残してきた兵藤サ氏と野村正實氏を講演者に、千葉大学からは安孫子誠男氏と秋元英一氏をコメンテーターに招いて議論が行われました。
 本コロキアムでは、現在の日本の「労働」が、グローバル化のもとでの失業率上昇、不安定就業層の増大、労働条件の格差拡大といった問題に直面し、かつて前提としていた労働慣行が後退していく中で、その影響力を減じている状況にあるととらえ、このような新しい事態の中で「労働」をめぐる研究はどのように議論しうるか、とりわけ「公共性」という観点から考えてみたいという趣旨のもとに開催されました。兵藤氏の報告は「労働問題研究と<公共性>」と題され、アレントやマルクス、ヘーゲルらの労働・仕事に対する視座やその市民社会論から公共性概念を再検討すると同時に、労働組合研究の観点から現在の組合が公共性を支える役割を担うべきであり、その研究もまた実践的な学問となるべきとの提言をおこなうものでした。野村氏の報告「労働研究の今日的課題」では、戦後日本の「ベースアップ」と「定期昇給」という用語の定義のあいまいさを事例に、日本の労働関係そのものがはらむ問題、および労働研究が実証的におこなわれてこなかったことの問題が指摘され、現在の労働関係や労働研究が公共性を語りにくい状況にあることが示されました。両氏の報告は、コロキアム開催趣旨を自らの研究に引き受けて、現在「労働」をめぐって公共性を語ることの問題点を指摘し、語りうる条件と方向性についての具体的議論を導くものでした。
 二報告の後におこなわれた、安孫子氏と秋元氏のコメント、および総合討論では、企業の公共性や社会的責任を考える上でのコーポレート・ガバナンス改革のモデルについて、特に雇用をめぐる社会的排除に抗する開かれた公共性のあり方、イギリスや社会主義国と比較した場合の日本の賃金決定システムのフレキシビリティなどが議論されました。また、フロアには労働問題の現場に立ち会ってきた方々が多数来場され、労働組合の方向性をめぐっての突っ込んだ討論もおこなわれ、活発な議論が展開されました。

2006年3月5日(日) 13:00〜17:00

千葉大学大学院社会文化科学研究科棟2階 マルチメディア会議室

(鹿住大助)

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