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公共哲学

公共哲学部門サブリーダー 小林 正弥(法経学部教授)

 人々に理解可能で、その行動や政策形成の指針となる思想が必要とされている。公共性を中心概念とし、その実現を目指す哲学を構築する。

趣旨
 現下の人類最大の課題にとりくむ「持続可能な福祉社会に向けた公共研究拠点」のなかにあって、公共哲学部門(センター)は、公共哲学を基礎にして公共政策や国際比較との連携を行い、公共研究という新しい領域の開拓に貢献することを目的としている。あるべき公共の姿を規範的に探求していく公共哲学は、学問の専門化と私事化に抗し、「公共性」の概念を中軸にして、新しい時代にふさわしい学問の基礎を探求しようとする。同時に、ネットワークを通じて公共空間を構築し公共世界を再建することを目的としており、実践的にも現実に有意な学問を目指す。

 こうした包括的な課題に本格的に取り組むために、哲学、倫理学、政治学、法学、経済学、政策学、歴史学などの専門分野の知見を総合しながら、平和、環境、福祉、幸福などといった主題に焦点を当てる。公共哲学は、具体的には、以下の三つの私事化に抗して公共性の回復を目指す学問として、次のような特色によって暫定的に定義することができる。
 
(1)公開性・公益性: 社会内私事化に抗して、政治・経済・社会における新しい公共性の実現を目的とする(社会・政治の公共化)。戦前以来の「国家=官≒公」という一元的な公観念を脱却して、公衆に立脚した「脱国家的公共性」「地球域的(グローカル)公共性」を提示する。
(2)実践性: 学問の対社会的私事化に抗して、学問の社会的公共性の実現を目指す。学問智を一般社会に解放し、公衆に理解可能な形で提示すると共に、公共政策も含め、現実問題に対する解決の思想的・政策的指針を提示する(学問の公共化)。
(3)包括性: 過度の専門化・タコツボ化(丸山眞男)による学問内私事化に抗して、学問内部における学際的・包括的な公共性の回復を目指す。専門分化の弊害である、諸分野の閉鎖性を打破して、現実の問題解決に役立つ総合的智恵ないし学問的智恵(学智)の形成を目指す。
 
本プログラム開始時点における、公共哲学の特徴や基本的発想は以下の通りである。
(1)公共とそれに基づく「公」の再建
 「国家=政府」という「お上の公(おおやけ)」ではなく、publicや公(中国)というような観念に見られるような、人々が共に水平的に形成する「公共」。その担い手としての、NPO・NGO(中間集団)。それらに基づいた政策提案・形成。
(2)活己(私、個)開公
 「滅私奉公」(戦前)でもなく「滅公奉私」(ミー・イズムなど)でもなく、一人一人が自己を活性化し(エンパワーメント)、人々に関わる公共的な問題を考え解決を図る思想。
(3)空間的公共性=グローカル(地球域的)な公共性
 国家的公共性に限定されず、グローバルかつローカルで、国境を越えた公共性
(4)時間的公共性=ジェネレイティヴ(世代継承生成的)な公共性
 世代を超える生成発展(ジェネラティヴィティ、エリクソン)という観点は「持続可能性」の実現に貢献する。
(5)「公共善―財」の実現を目指す「福祉公共体」
  公共善(public goods)に配慮した物質的財(goods)の配分を考える。そもそも、国家などの公共体(res publica)の目的は、かつて「commonwealth(共通富、共通福祉)=共通福祉(富)体」と言われたように、「福祉社会ないし福祉コミュニティー」の確立にある。これは、物質面だけに限定されている問題ではなく、精神的・物質的な「善―財」が「福祉」(well-welfare)であり「富かさ−富(wealth)」である。
(6)研究者―市民の連携による実践的学問
 研究者/市民の分断を越えて、その連携を形成し、現実の世界に貢献する学問を形成。この一環として、NPO・NGOなどと研究者とをネットワーク化。
(7)公共的市民の育成
 担い手となる市民にも公共的意識や政策思考が重要=公共的市民(public citizen)。学生とNPO等の市民に、そのような公共民教育(civic education)を行う。
 
 公共哲学には、公衆において現実に存在する、生きた思想の歴史的・経験的・実証的な研究を中心にする場合も存在し、これを「描写的(経験的)公共哲学(descriptive or empirical public philosophy)」と呼ぶことができる。他方、公共性の実現という、あるべき理想をも提示するのが、「規範的公共哲学(normative public philosophy)」である。この双方の要素が重要であり、双方の接近法(アプローチ)が追求されるべきである。規範性なき描写的公共哲学は、目的や方向を欠き、海図を失った漂流船のようなものであり、経験的考察なき規範的公共哲学は、周囲の状況に盲目で、計測器の壊れた故障船のようなものである。

 公共研究では、この両者が密接に結びつき、さらに公共政策とも接合することによって、総合的な学問研究に立脚した具体的提言を行っていくことを目指す。また公共哲学センターを拠点とした活動は、市民のニーズをダイレクトに吸収し、教育研究や政策提言へ結びつける機能を果たす。研究者内部のタコツボ化を打破すると共に、研究者と市民との壁や市民相互の壁をも打破し、これらが広範に連携するネットワークないしメタ・ネットワーク(ネットワークのネットワーク)

「公共哲学」事業推進メンバーのご紹介
小林 正弥
個人ホームページ)
人文社会科学研究科(公共研究専攻)教授
政治哲学・比較政治
公共哲学担当サブリーダー(友愛公共主義の構築/公共哲学プロジェクト主担当)
水島 治郎
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)准教授
政治学
公共哲学担当(オランダを例にした持続可能な福祉・雇用社会の検討)
関谷 昇
 
人文社会科学研究科(公共研究専攻)准教授
政治思想史・政治哲学
公共哲学担当(近代社会契約説に立脚した新しい公共の検討)


 
     
      千葉大学大学院 人文社会科学研究科 公共研究センター
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