公共哲学と公共政策の連携による対話的な学際的研究
今の地球では環境問題が深刻化し、世界の多くの人びとが貧困に苦しみ、戦争が絶えません。さらにイギリスのEU離脱や西洋におけるポピュリズムの伸張などのように先進国でも政治経済に大きな問題が浮上している。このような公共的問題に対処するために、私たちは公共哲学と公共政策という2つのアプローチを連携させる学際的研究(公共研究)により,問題を克服することを目指しています。
大きな問題であればあるほど、小さな専門分野だけでは十分な解決策を考えることはできないので、私たちは学際的なアプローチを行っています。また公共政策を考える際にも思想や歴史への洞察が不可欠なので、思想的な問題を扱う公共哲学と、現実の政策問題を研究する公共政策とが連携することが大事です。そこで私たちは、実践的な学際的研究として「公共研究」を提唱し、「持続可能な福祉社会に向けた」研究拠点として「公共研究センター」を2004年に設立して、その発展に努めてきました。このような努力の結果、千葉大学の人文社会科学系、特に社会科学系の大学院では「公共」が中心的概念として用いられています。
公共的な議論や活動を活性化して、公共的市民を育成するためには、対話的アプローチが重要な役割を果たします。そこで私たちのセンターの研究者たちは、マイケル・サンデルのハーバード白熱教室を念頭において大学で対話型の講義や教育を推進したり、地域や市民における熟議を促進したりする活動を展開しています。
「公共」という概念で、私たちは一国だけの問題を考えているのではなく、国際的な論点をも扱っています。国境を越えた公共的問題があるからです。ナショナルな「公共」だけではなく、グローバル(地球的)な問題やローカル(地域的)な問題も表すために、私たちは「グローカルな公共」という表現を用いています。
すでに,「地球環境」という概念は広く世界で使われています。そこで私たちは,「世界の貧困問題」を解決するために,福祉を国内の貧困問題だけではなく地球的問題についても考えるために「地球的福祉」という概念を提起し,「地球福祉研究センター」を設立しました。また平和問題に関しても,「地球的平和」という観念を用いています。これらの研究主題を表すために2010年4月からは「地球環境福祉研究センター」という名称が用いられました。この研究のためのアプローチが公共研究なので、公共研究センターも通称として用いられてきました。こうして本センターは、千葉大学の文系、特に社会科学に関する大学院における研究・教育の中心的センターとして位置づけられ、活発に活動しています。
2017年度から大学院の名称が「人文公共学府」となり、「公共」という理念がますます重要になったので、正式名称を「公共研究センター」に戻すことになりました。引き続き、対話を重視しながら持続可能な世界の形成を目指して「グローカルな公共性」の実現を目指す研究を行いますので、環境・福祉・平和を軸にしながら政治経済や社会の全般について地球的・国家的・地域的な問題を公共的な観点から扱っていきます。具体的には「①調査・研究,②政策提言,③学術的イベント,④国際的連携,⑤市民・行政・企業とのネットワーキング,⑥教育・啓発活動(研究者・実践者の育成)」などの活動を展開することを目指しています。
さらに2024年度から、大学院社会科学研究院の研究能力をさらに発展させるべく、その研究センターの再編を行い、これまで関連センターだった「社会経済センター」と「法と社会研究センター」と統合して、研究院全体の研究活動をさらに促進することになりました。引き続き、他部局や他大学、さらに海外の研究者と連携しつつ、研究活動を発展させていきたいと思います。
学内外の研究者・研究機関はもとより,問題関心を共有するNPO・NGO、行政機関、企業などの公共的活動と連携して,上記の目的の実現を目指しますので,ご支援・ご協力を賜れれば幸いです。
(2024年3月更新)
センター長 小林 正弥